3分で分かる行動経済学「経済は感情でまわってる!」

ひとは合理的には行動しない

従来の経済学では、ひとは合理的に判断して行動するという前提のもと様々な理論が展開されてきました。でも現実の世界では、ひとは必ず合理的に判断しているわけではありません。そのときの感情に流されて判断や行動をすることがあります。この感情、つまり心理学的な知見を取り入れて経済を理論化したものが行動経済学です。

行動経済学の源流は1950年代にさかのぼります。最初は従来の経済学に対する批判的な研究として始まりました。1990年代以降に急速に発展し今では経済学の主流派のひとつとして認識されています。1978年には経済学者ハーバート・サイモン、2002年に経済学者ダニエル・カーネマン、2017年に経済学者リチャード・セイラーらが行動経済学の分野でノーベル経済学賞を受賞して、行動経済学の注目度が高まりました。

行動経済学入門

行動経済学には非合理的な行動を分析し体系的にまとめた基本的な理論があります。入門編としてその基本的な理論の代表的なものを紹介します。

プロスペクト理論

行動経済学の代表的な理論で、2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンらによって展開されました。プロスペクト (prospect)は「期待・見込み・予測」などといった意味です。ひとは利益が得られる場面では確実に手に入る方を選択し、損失を被る場面ではできる限り回避する方を選択するという理論です。もっと簡単に言うと「ひとは得するよりも損をしたくない生き物だ」ということです。

この理論を確かめるための実験があります。以下の選択肢が2つある質問に対しひとはどちらを選ぶでしょうか。

質問1:2つの選択肢のどちらかを選んでください。
選択肢A:無条件で100万円が手に入る。
選択肢B:コインを投げて、表が出たら200万円が手に入る。裏が出たらなにももらえない。

質問1の選択肢はどちらを選んでも期待値は同額の100万円です。つまりどちらを選んでも理論上はまったく同じことです。でも選択肢Aを選ぶ人の方が圧倒的に多いことが実験で証明されています。

質問2:あなたは200万円の負債があるものとします。2つの選択肢のどちらかを選んでください。
選択肢A:無条件で100万円の負債が減額され、負債が100万円になる。
選択肢B:コインを投げて、表が出たら負債全額が免除される。裏が出たら負債額は変わらない。

質問2の選択肢も、実はどちらを選んでも期待値は同額の-100万円です。こちらも理論上はどちらを選んでもまったく同じことです。質問1の実験結果を加味すると、質問2では選択肢Aの確実に負債が減る方を選ぶと考えがちです。しかし質問1で確実性の高い選択肢を選らんだひとのほとんどが質問2ではよりリスクの高い選択肢Bを選ぶという実験結果が出ました。

ひとは目の前に利益があるとその利益が手に入らないリスクを回避する傾向があり、損失が目の前にあると損失そのものを回避しようとします。質問1では選択肢Bは50%の確率で何も手に入らないリスクを回避して、質問2では選択肢Aは100%の確率で100万円の負債が残るという損失を回避しようとするのです。

現状維持バイアス

変わった方がメリットがあると分かっていてもひとはなかなか変わることができません。これを現状維持バイアスといいます。「いまの仕事に不満があるし、給料が上がるかもしれないから転職しなきゃなあ」と思ってはいても何年も今の職場を変えられないという経験があるひともいるのではないでしょうか。しかも具体的にヘッドハンティングの会社から今と同じような仕事内容で報酬は今よりも上がるという提案をされたとしてもひとはそう簡単には動けないのです。

ひとは変化することで得られるメリットに期待するよりも、何かを失ってしまうのではないかという不安の方が大きくなってしまいます。どちらを選んでもメリット・デメリットの両方が含まれる選択肢があるとき、リスクを回避しようとして必ずしも合理的ではない選択をすることがあるのです。

プラシーボ効果

プラシーボ効果は大変有名な理論なのでご存知の方も多いでしょう。プラシーボ効果は偽薬効果とも言われ、実際には効果がない薬なのにあたかも効果があるかのように言われると本当に薬の効果が出るという実験結果があります。

行動経済学の観点でも、まだ誰も価値を認めていないような新しい商品にあえて高額な値段をつけることで、その商品にあたかも価値があるかのように見せるといったマーケティングの手法があります。有名人やその商品に関連するジャンルの権威のある人を広告に使い、その商品にお墨付きを与えることで商品価値を高めるといった手法もあります。これらは値段の高いものは良いものに違いない、あの有名人が良いと言うなら良いものに違いないといったひとの思い込みをうまくプロモーションの仕掛けに活かしたのです。

バンドワゴン効果

ある選択肢をたくさんのひとが選んでいると、その選択肢を選ぶひとが更に増えるという理論です。バンドワゴンとはパレードなどの行列の先頭にいる楽隊車のことです。「バンドワゴンに乗る」とは時流に乗るといった意味もあります。簡単に言い換えると、たくさんのひとが使っている商品を選んでしまうのでより一層人気が高まりますます使うひとが増えるという現象です。「売れ筋ナンバーワン」とか街でよく見かける流行の洋服など、みんなが使っているという安心感がありますよね。個人の判断よりも集団の判断の方が正しいという同調心理の現れです。

流行は意図的に仕掛けることが可能です。かつて90年代に音楽プロデューサー小室哲哉氏の作った楽曲が大ブームとなりましたが、このときレコード会社は多額の費用をかけて大規模なプロモーション活動を行いました。楽曲を大量にリリースするとともにテレビコマーシャルや各種媒体の広告などで楽曲を大量に露出させました。ひとは1日に何度も広告を目にしたり曲を聞いたりするうちに流行しているのではないかと思うようになり、そして実際に流行し、流行がさらなる流行を呼ぶようになり一大ムーブメントにまで発展したのです。

サンクコスト

サンクコストとは、もう既にどうやっても回収ができないコストのことです。埋没コスト・埋没費用とも言われます。既に支払い済みの費用や取り返すことができない時間はサンクコストです。

クローゼットにはもう二度と着ないであろう洋服がたくさん入っているのではないでしょうか。もう着ないと分かっているのに、せっかく費用を払って買ったのだからといって取って置きたくなってしまうものです。映画を映画館に見に行ってその映画が全然面白くなかった場合、2つの選択肢があります。支払った映画のチケット代がもったいないので仕方なく最後まで映画を見るのか、それとも思い切って途中で映画館を出るのか。もったいないから最後まで映画を見てしまうひとが多いのではないでしょうか。この場合チケット代はサンクコストです。サンクコストはどちらの選択肢を選んでも取り戻せません。つまりサンクコストと意志決定には関係がないのです。合理的な判断をするなら面白くない映画なら途中で見るのを止めた方がいいでしょう。チケット代どころか時間まで無駄になってしまうからです。

何かを意志決定する際にはサンクコストは無視しなければなりません。なにをどうやっても取り戻せないコストなのです。つまり意志決定時にどちらを選択してもそのコストは取り戻せないので考えるだけムダなのです。先の映画の例でいうなら、面白くない映画を途中で見るのを止めれば本来映画を見ることに費やすはずだった時間を他のことに使えるという点を考えるべきなのです。

ハロー効果

ハロー効果とは、ひとが物事を判断する際にその物事が持つ顕著な特徴に引っ張られて他の特徴についての評価が歪められてしまうという現象のことです。有名な大学教授の話はその教授の専門外のことであっても説得力があると感じてしまうものです。また東大卒や英語がペラペラといった特徴を持つひとは仕事もできそうだというイメージを持たれたりします。仕事ができるかどうかと英語が話せるかどうかは本来関係のないことです。

ビジネス上では有名人がおすすめしているというだけで商品が売れたりします。テレビコマーシャルに好感度の高い有名人を起用するのは、好感度の高いひとが宣伝している商品は良い物に違いないと感じてしまうハロー効果を狙ってのことです。商品そのものが無名もしくはブランド力がないものであっても有名人という権威の裏付けを借りて商品の評価を高めるのです。

まとめ

ここまで見てきた理論は行動経済学のほんの一部ですが、それぞれの理論に共通するのはひとは時として不合理な行動を取ってしまうということです。 思い込みや先入観などそのときの心理によって合理的な判断や行動ができないのです。マーケティング施策を考える際には必ずこれらの原理を考慮して設計することでより高い効果を得られるかもしれせん。